安見正志先生の「納脂」(=脂肪注入)

 昭和の時代は、形成外科と無縁な美容外科クリニックの方が多かったもので、当院の先代の安見正志先生も産婦人科出身でした。
 先生の書架には大森清一先生の「形成外科学」などの形成外科医の著書もありましたが、「脂肪はDermal Fatでないと生着しない。」などとは昔から思っておられなかったそうで、何と昭和40年代から脂肪注入を行っていたのでした
 脂肪吸引が今の手術スタイルの原型で始まったのが1976年(フィッシャー:昭和51年)または1977年(フルニエ、イルーズ:昭和52年)と言われ、脂肪注入はその後に付随して行われていったのですが、安見先生は彼らより注入に関して先駆者だったのです。
 ただ安見先生の脂肪注入は顔面注入として、下腹または大腿内側から脂肪を少量吸引→少量注入→期間を空けて再注入でカサを増すといったもので、具体的なテクニックとしては18ゲージのカテラン針を12または25ccの注射器と連結、エピネフリン入り局所麻酔剤を下腹または大腿内側の注射した部位に刺して注射器の内筒を引きつつ陰圧にして今で言うチューリップシリンジの感覚で吸引、シリンジ内がだいたい一杯になったら、注射器を立てておいて脂肪が分離したら、その脂肪部分だけ同じ注射器・同じ注射針で顔面の凹みに注入するといったものでした。
 安見先生がそれを始めた昭和40年代に脂肪吸引や脂肪注入なる言葉は存在せず、安見先生の独自用語で「納脂」と呼んでいました。しかし残念なことに先生はこれを学会発表されませんでした。批判もあろうからそれが嫌だったと言われていました。ちょっと惜しいと事と思いました。(続く)