医療行為と因果関係の工夫による医師へ損害賠償を課す方法

 小田耕平弁護士は「美容医療~判例の実務」の中で、「深部静脈血栓症と肺動脈血栓症」に関して、患者の請求は東京地判平成23年12月9日で認容、東京地判平成24年5月17日で棄却を挙げた上で、本事件に関しては「最判平成12年9月22日の論理を踏まえるとともに、被告執刀医が患者の診察を行わなった点」これを「因果関係の認定に工夫がみられる。」と評している。
  これは「Aで結果が出せない時に、Bで結果を出して、それをAの代わりの成果にする。」と解される。
本当に齋藤隆氏(元裁判長)も、そうなのか直接に尋ねた
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齋藤:あれは手術の過誤で請求原因が構成されていまして、脂肪吸引術のやり方、組織を攪拌すると血栓が飛び易いと、それについての術後の配慮、術後の療養、そこがおろそかだったために術後の血栓が飛んだことに対応が遅れたということで、確か請求原因が組み立てられたと思うんですけど、そこがなかなか難しいと。 但し適切な療養指導であったかどうかとの観点から見ると、説明の仕方とかの問題もあるので、そういう意味では死亡についての因果関係までは認め難いけれども、適切な医療を施さなかった、判例でいう当時としてはよく期待権の侵害とか、適切な医療を受ける権利の侵害ですね、そういう意味の法益侵害だったのではないかと、というようなことで、そういう意味での人格的利益の侵害と組立てると、必ずしも死亡そのものとの因果関係じゃなくてもですね、そういう人格的利益の侵害という面で損害を構成できるということで、一部認容したという事案だったと今も記憶しています。
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 上記のように、本当にそうであった。
 なお「組織を攪拌すると血栓が飛び易いと」と表現しているところから観れば、被告医師の方で、原告患者側が「攪拌(掻き回す)」と表現することに反論し、図示で吸引管を手元まで引いては角度を変えての放射状にストロークを繰り返す術式であることを齋藤隆氏は読んでないと言える(少なくとも記憶に留めていない)。
また被告医師側の「血栓が飛ぶ」とは非炎症性の静脈血鬱滞による深部静脈においてであり、原告患者側からの主張である大伏在静脈(表在静脈)での静脈炎から二次的に発生した血栓が飛ぶ可能性は少ない。これは被告医師が千葉大血管外科の中島伸之教授の論文の書証と引用「表在系に形成された血栓が局所より逸脱して肺動脈に塞栓を起こすことはない.その理由は,1)表在系は小口径静脈であって,形成された血栓は壁に密着していて遊離する可能性は少ない.2)たとえ遊離したと仮定しても量的には微量であり,subclinicalであろう,などが考えられよう.」からの準備書面での主張が全く、齋藤氏の頭に入っていないのである(もしくは医師側の書面をまともに読んでいないのかもしれない)。
 では「人格的利益の侵害という面で損害を構成できる」のか?
齋藤氏は脂肪吸引に由来する下肢深部静脈血栓の痛みは医師は予見できたはずだから、下肢の痛みを訴えて来院したら診察し、深部静脈血栓の診断をし適切な治療(血栓溶解剤の投与)や高次の病院への転医を怠ったとして医師に550万円+金利の賠償を課した。
だが、そもそも局所麻酔単独の日帰り脂肪吸引で深部静脈血栓など起きない。当時も現在に至るまでもそのような報告はなく、医学的に成り得ない。上述の千葉大の教授の論文などでの数多くの書証と主張を齋藤氏は読まないか理解しようとしないのである。
 また患者は下記のように死の6日前に「足がいたむ」と整形外科専門医の診察を受けているが、脂肪吸引をした場所で無く「左下腿~足背」であり、これは左L5神経根の支配領域の痛みである。
整形外科専門医の視診・触診・打診・SLR/ブラガード・テストや筋力テストで右下肢は全く正常であり、レントゲンでL5/S1の椎間の狭小が見られるため同部の椎間板ヘルニアが疑われているのである。それが持病としてあったことは実妹の陳述書にも書いてある。
左下腿から足背の痛み
つまり患者は6日前は太腿脂肪吸引の痛みは落ち着き、持病の坐骨神経痛による左下腿~足背の痛みが自覚症状だったのである。
整形外科の診察  そして急死前日の来院は「捻挫」のためである。判決文にさえ、それが書かれてある。 (判決文PDF8頁中段)
美容外科手術で死亡事故が起きたと報道 ・患者は死の前日階段から落ちて捻挫し診察希望で自分で歩いて来院した。
・受付は診療科違いから、レントゲンのある医療機関へ転医を勧めた。
・医師は手術中であったので、この時、受付は医師に捻挫の診察来院を伝えなかった。
・受付横山は証人出頭で詰問され「伝えたと思います。」だけしか言えなかったのに、齋藤氏は 「利害関係のない第三者」と評して被告医師に「伝えた」ことにした。 (判決文PDF7頁中段)
美容外科手術で死亡事故が起きたと報道 ・また医師の陳述書は「重篤性がなかった」「緊急性がなかった」との趣旨で書いてあるのに、齋藤氏は「供述を変遷させるなど」と嘘の判示をした。(判決文PDF9頁下段)
美容外科手術で死亡事故が起きたと報道  受付が伝え無かったら「伝達義務違反」の過失を負うので「利害関係のない第三者」でないのは、常識的に分かる筈であるし、齋藤氏も実は分かっていたと窺える。
陳述書  上記に判決が確定し安堵した受付が本音を吐露したことの記述がある。
 また齋藤氏が「人格的利益の侵害」というなら、医師が予約手術中の患者はどうなるのか?
 判決文PDF9頁下段にある「手術衣やゴム手袋を付けたままでも」とは視診の診察のことである。
 予約患者の人格的利益を守るため、捻挫診察には視診までしか対応できない。
元より局所麻酔・日帰り脂肪吸引で64.5㎏の女性からtumescent液を含めた900ccの脂肪吸引で深部静脈血栓肺塞栓など生じない。脂肪吸引でそれが起こり得るのはMega・Liposuctionとして1回に1万cc以上の吸引をして入院・安静(不動)を保ってしまったような場合である。
本事件では医学の分からぬ、そして多数の文献を出しても理解しようとしない齋藤氏に裁判官としての資質の欠如があると思われる。そう論評せざるを得ない。
 齋藤氏は「期待権の侵害」などとも言っているが、この便利な言葉は医師に過失も因果関係も無い時にでも、賠償を課す際の打ち出の小づちとして使われた時期があるが、2011年2月25日最高裁判所第二小法廷判決において、「患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に、医師が、患者に対して、適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは、当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものである」と判断するに至っている。したがって齋藤隆氏は厳しく断罪されるものである。