(肺血栓塞栓症の起因静脈に)表在静脈が原因となることがない訳でなく(資料1、28、31)とは
鑑定人は、鑑定書の2頁中段で「血栓塞栓症の起因静脈は深部静脈であることは否定しようがないが、表在静脈が原因となることがない訳でなく(資料1、28、31)脂肪吸引術においてもその治療部位が表在層にとどまるとはいえ起こり得る可能性は治療に携わる美容外科医・形成外科医として考えておくべきである。」と鑑定した。
これは全くの誤りである。血管外科の基本的なことすら分からず鑑定をしている。
全身麻酔でメガ・リポサクション(1回に10,000cc以上の脂肪吸引)を行い、しばらく入院・ベッド仰臥を続ければ不動姿勢が続いて下肢深部静脈の血液鬱滞が生じ、非炎症性の静脈血栓が生じ、それが中枢側へ流れて肺塞栓を起こすことはあるが、それは脂肪吸引だからではなく、安静・不動を続けたからである。
本事件(太腿内外側の局所麻酔単独の日帰り脂肪吸引)では、安静・不動を続けることがなかったので静脈血栓が出来る余地がない。局所麻酔単独で患者は術中も意識清明であり術中体位変換さえ、患者が自力で腹臥位から仰臥位に体位変換している。つまり患者自ら下肢筋肉を使い関節可動をしているのである。
鑑定人は鑑定を裏付ける「資料1、28、31」を挙げる。鑑定人が下線を引いたと思われる箇所、つまり鑑定を裏付ける証拠とした箇所のみ頁を画像でまず載せるが、全文はPDFをクリックして参照されたい。
読めば分かるように、どこにも「血栓塞栓症の起因静脈は~表在静脈が原因となることがない訳でなく」の裏付けになる説明など無いのである。
―――――【資料1】について――――
中段に「下肢からの静脈注射の禁止」とあるが、これは特に老人では下肢から点滴を入れると、その下肢を動かさなくなるので、下肢の不動から下肢深部静脈の鬱滞による血栓生成のリスクがあるからである。表在静脈とは何ら関係ない。
この資料1の全文のPDFは⇒ここをクリック。(全文のどこにも鑑定を裏付けるものが無い)
―――――【資料28】について――――
左上段の「大伏在静脈血栓」を楕円で囲んでおり、中段の「肺塞栓」も楕円で囲んでいるが、「大伏在静脈血栓」が「肺塞栓」を起こすとの記述ではない。むしろ「大伏在静脈血栓」の2行下は「安全性を強調している。」と記載している。
この資料28の全文のPDFは⇒ここをクリック。(この論文は尾郷賢教授が杏林大学形成外科に居た頃の執筆であるが、私は尾郷教授の元、杏林大学形成外科に週1回4ヶ月間勉強に行っていたことがあり(大学に「専攻医」との登録が残っている)、この文献を読んでは直接、尾郷教授に向かって「先生が脂肪吸引の手術もされていたとは意外です。」と言った。すると尾郷教授は、何と「唯の1度も脂肪吸引なんてやったことはないですよ。論文を書いただけです。題名に「文献的考察」とある通りですよ。と言われたのである。)
―――――【資料31】について――――
右上に「(1)静脈血栓症・血栓性静脈炎」とあり下の説明に「両者は原則的に異なる」との記述は発生のメカニズムにおいてその通りである。
本事件では証人の佐藤教授がこの理解のない因果関係の説明をするから、医学的に間違った証言が続いた。
この教授は当時毎週テレビのレギュラー出演者でもあったので、表在静脈である大伏在静脈に脂肪吸引によって静脈炎が生じ、そのために血栓ができると、そこから今度は非炎症性の静脈血栓が作られ、それが中枢側に飛んで行った等と素人(裁判官)なら騙せる証言を続けたのである。
表在静脈である大伏在静脈に静脈炎が続いたならば血管に走行した発赤と疼痛があり、炎症から二次的に血栓が連続したものとして血管壁に固着した状態で長く延びた状態で見つかるものであり、剖検写真20のような微小な血栓しか認めない所見では静脈炎が生じたとの証言は不適切である。脂肪吸引のあらゆる文献でも静脈炎を誘発するとの記載はない。
鑑定人は、この右上の説明〔病因〕を読んでも理解できないかったのであろうか?医育機関名簿で見る本当のご専門は「口蓋裂・熱傷・瘢痕」だそうだから、非専門分野なのは間違いない。
この資料31の全文のPDFは⇒ここをクリック。(頁の途中を資料として提出しており、どこのいつの文献かも不明)