顔面骨手術後の入院

私は開業前に顔面骨手術を盛んに行うクリニックの副院長をしていたので、「顎・エラ・頬骨」の骨切り・骨削りの手術を開業当初から今も連綿と行っています。ただ多くのクリニックと違うところは、今は日帰りが多い中で、当院では「原則1泊入院」してもらうということです。

実は「入院」に関し、平成の初め頃は顔面骨手術をやって日帰りなんてなかったもので、それは主に全身麻酔薬の関係でした。当時の側管から入れるラボナール(静脈麻酔の一種)やガス麻酔のエトレンやフォーレンは手術が終わって抜管後もまだ薬剤が血中に残っていて患者さんの意識がボ~っとしている感じだったり、吐き気を催したりしがちだったので、日帰りが難しかったのです。

しかし現在の側管から入れる静脈麻酔薬がプロポフォール(商品名:ディプリバン)に、ガス麻酔はセボフルレンに替わってから、薬剤の分解が速く、抜管後に直ぐ意識清明になって吐き気も少ないですから、日帰りも可能になったのです。
それに顔面骨手術は意外に術後の痛みが少ないのです。これを私は例え話として、「動物で言えば顔の骨が折れた時は死ぬときだから、今さら痛みは少ないのです。」と言ったりしています。

上記から、「じゃあ日帰りで良いじゃないですか?」となるのですが、顔面骨手術後は結構な腫れが生じ易いのが問題で、私が「原則1泊入院」に拘るのはココなのです。
術後日帰りで帰せば道路での歩行、タクシーなどの乗り降り、階段など、やはり院内のリカバリーベッドで安静にしているより遥かに運動量が多いですから顔が腫れてきます。また骨を切っている以上は術後出血はあるのですが、これを排出させるためにドレーン(排液管)を入れて皮下に溜めずに出した方が良いです。日帰りだと通常はドレーンを入れる訳に行きません。それで顔の腫れ対策、術後安静・ドレーン留置のために「原則1泊入院」をお薦めしています。なおその時の当直は私が行っています。
尤も、家族の都合(例えば小さなお子様が居るなど)で、どうしても日帰りしたいとご希望されれば、その時は患者さんに合わせます。

なお全く別の見地から日帰りを言っているクリニックもあります。
それはクリニック側の都合として「だれが当直するんだ。」ということです。美容の医師の方は「いや~勘弁して下さい。」と言い、看護師さんは「私たちは一般病院の夜勤が嫌で、夜勤のない勤務先ということで勤めたわけですから、平然と当直とか言われても困ります。当直が無い点では精神科クリニック勤務でも良かったんですから。」なんて話もでていました(実話)。

それでも宣伝では「日帰りで可能なご負担の少ない手術です。」などと記載されているものです。