脂肪吸引は形成外科のサブスペシャリティー領域と見做されて行くのか?

(昨日の続き)形成外科という名前は丹下一郎先生が命名されました。それを私は丹下先生ご自身から直接お聞きしました。何を言いたいかと言えば、それだけ他科よりは若い診療科ということです。
私の母校(藤田)も私が入学時は形成外科講座などなく、消化器外科講座の中の形成診療班ということでスタッフは2名だけでした。30~40年前なら多くの大学は同様かスタッフすら居なかったものです。今とは隔世の感があります。

形成外科は担当する臓器を持たない手技に特化した診療科ですから、以前も日本専門医機構(以下、「機構」と表記)が認定する基本領域に入れるか、入れずに外科のサブスペシャリティー領域になってしまうのか(2階建ての2階に)、重鎮たちは危ぶんでいました(形成外科学会の総会で波利井先生がそう言っていましたから)。当然猛運動をした上での現在の基本領域入りを果たしたと思います。

昨年11月の性別適合手術の保険適応に大きな政治運動をしたのは日本形成外科学会です(私は厚労省に電話で聞いています)。インターネットの意識調査結果を見ても、不妊治療に健康保険が使えない現状なのに、性転換手術が健康保険適応になるなんて納得できないというような反対意見が殆どだったのに、これを成したのは正直、凄いと思いました。

昨日学会で取り上げられた脂肪注入の保険適応も早々は無理としても、結局は日本形成外科学会は成すと思います。しかし昨日書きましたように、脂肪注入の前に脂肪吸引が必要な訳で、脂肪吸引が入口は広いけれど実は極めるのは難しい手術で、「脂肪注入の保険適応」に隠れて、保険適応でも行われる脂肪吸引が行われる時、この脂肪吸引の多くは拙劣な手技での結果になりがちと思います。形成外科学会 自己脂肪注入の保険適応

現在の機構の位置づけでは、形成外科のサブスペシャリティー領域にJSAPSの美容外科があります。機構に関して浅学の私が考えますところ、残念ながら2階建ての1階が無いJSASの美容外科に「勝負あった!」となったとなるのですが、実はJSASの美容外科は歴史的に脂肪吸引を主要な柱としてきました(高須先生が昭和54年に日本初でご紹介、昭和58年から周先生は脂肪吸引を標榜して診療、その他大勢も学会発表)。その点、JSAPSの美容外科は脂肪吸引に熱心でなかったものです(渡辺先生、白壁武博先生を除く)。だから近年のJSAPSの美容外科学会には脂肪吸引の演題はほぼ無いです。

10年先まで見れば、脂肪注入の(形成外科での)保険適応で、脂肪吸引まで形成外科のサブスペシャリティー領域と見做されて行くのかも知れません。
しかし画像で揚げましたように、脂肪吸引は「脂肪吸引外科学」として、どこにも属さない独自の世界観のある分野と認識すべきものと思います(画像はクリックで拡大)。